◉美幸工業×沼津信用金庫、三島信用金庫×木村治司税理士事務所
経営改善計画の策定と書面添付で〝保証〟を解除
クリーニング店向けの業務用洗濯機販売から、コインランドリー店の企画・施工へと業態転換を成功させた美幸工業。竹村勝社長は、税務顧問の木村治司税理士の後押しを受けながら、既存融資から経営者保証を外し、さらに保証のつかない新たな融資を獲得した。
国の施策である「早期経営改善計画策定支援事業」(現ポスコロ事業)を活用して美幸工業が経営改善計画を策定し、沼津信用金庫の大岡支店に提出したのは2017年のこと。主導した税務顧問の木村治司税理士が述懐する。
「美幸工業さんは、すでに利益体質を構築されており、差し迫って経営改善が必要な会社ではありませんでした。しかし、竹村勝社長から息子さんである俊克専務への事業承継を控え、今後さらに成長していくには、早期経営改善計画策定支援事業を利用して方向性を明確にし、金融機関との協調体制をつくっていく必要があると・・・・・・」
計画を沼津信金に提出した際、木村税理士は既存融資の経営者保証の解除を提案する。美幸工業が、経営者保証ガイドラインの3要件(P18参照)を十分に満たしていると考えていたからだ。また、たまたま、当時、大岡支店に赴任してきた支店長が、木村税理士と旧知の間柄だったという「気安さ」もあったという。
その後、木村税理士の依頼は、思わぬ広がりを見せながら受け入れられるわけだが、まずは美幸工業の歴史から追っていこう。
コインランドリー事業に特化
創業は1977年。業務用洗濯機メーカーの営業部長だった竹村社長の義父が独立してスタートした。顧客はクリーニング店や病院などの大規模施設。先代はメーカーとのつながりがあり仕入れに強い上、静岡県内の納入先にも知り合いが多く、順調に売り上げを伸ばしていく。しかし、しばらくすると「クリーニング店受難の時代」がやってくる。竹村社長は言う。
「1世帯当たりのクリーニング支出がどんどん落ち、われわれの顧客だったクリーニング店の多くが廃業。大手チェーンに集約されていきました。そうなると、価格のたたき合いが始まります」
存亡の危機である。ここで竹村社長は「コインランドリー事業への特化」に舵かじを切る。個人や事業者に遊休施設などを活用したコインランドリー事業を提案、最大の投資効率を得ることができるよう、企画・工事から運営までをフルサポートするというものだ。 美幸工業は、大手メーカーの特約店になるなど機械の仕入れに優位性を持っていた。この優位性を生かしながら、社長自らCADや3DパースなどのIT知識を習得。建物の建築、レイアウトから、電気工事、機械の配置・通信の設定、メンテナンス、機器の入れ替えまでワンストップで請け負える体制を整えた。
「当社には専門知識がありましたからね。一軒一軒丁寧に現地をリサーチし、収支計画などを含めた詳細な提案を行うことで、お客さまの信頼を得てきました」
そんな顧客本位の姿勢への評価は高い。たまたま、同社の提案書を垣間見た大手メーカーが、自社の提案書のサンプルに採用したというエピソードもあるほど。
美幸工業の最大の強みは、こうした姿勢からくる「柔軟性」である。
「既存の建物を利用するのか新たに建築するのかによっても、初期投資や利回りはかなり違ってきます。当社ではビジネスプロセスのほぼすべてを自社でまかないますから、お客さまの個別の状況に柔軟に対応でき、経費が抑えられる上、どれくらいの利益が出るのかが明確に把握できます。そこが強みなのです」(竹村社長)
左から木村治司税理士、竹村勝社長、竹村俊克専務
ガイドライン3要件を充足
木村税理士が美幸工業の税務顧問となったのは1997年。自計化の実践とともに販売管理ソフトを導入。巡回監査と月次決算の励行で、財務体質を改善していく。 「木村先生の指導もあり、自己資本比率は当時の30%から50%にまで上昇しました」と竹村社長。
こうした流れのなか、早期経営改善計画策定支援事業による計画策定を実践。息子の竹村俊克専務への承継を見据えた経営のブラッシュアップへと進んでいく。
沼津信用金庫に経営改善計画を報告する際、木村税理士が経営者保証を外せないかと提案した話はすでに述べた。繰り返しになるが、経営者保証ガイドラインの3要素を美幸工業がクリアしていることが、その提案の根拠だ。
3要素の筆頭にくるのが「法人と個人の一体性の解消」。これについては、「添付書面」(書面添付制度※)で担保されている。木村税理士が沼津信用金庫に提出した添付書面には、①法人と経営者個人との資産・経理の分離②法人と経営者の資金のやりとりが社会通念上、適切な範囲を超えていない旨の確認が明確に記載されていた。
3要件の二つ目の「財務基盤の強化」については、利益体質と高い自己資本比率が示す通り、何の問題もない。要件の三つ目「財務状況の適時適切な情報開示」についても、木村税理士の整えた自計化、巡回監査、月次決算の流れを踏まえた金融機関との密な情報交換、あるいは早期経営改善計画策定支援事業に義務づけられているモニタリングの実施などにより、万全といえる状況だった。
これら「要件充足」を鑑みた沼津信金の出した答えは既存プロパー融資の「経営者保証の解除」だった。当然のようにも思えるが、これまで経営者保証を「当たり前」だと考えていた竹村社長にとっては「とてもありがたいこと」に映った。とくに、専務への承継を間近に控えていただけに、沼津信金の返答は思わぬ「吉報」といえた。
出店計画から企画、工事、PR、メンテナンスまでワンストップで請け負う
直営のコインランドリーを2店舗運営
攻めのマーケティングへ
さて、竹村社長と木村税理士が、沼津信金との交渉を行っているちょうどその頃、やはり地元の地域金融機関である三島信用金庫片浜支店から新規融資の提案があった。三島信金においても、沼津信金と同じく、美幸工業の毎期利益をしっかりと出している現状と、書面添付の内容を認識しており、新たな融資を「経営者保証を外したものに」という木村税理士と竹村社長の要望にも応える意思を見せた。
竹村社長は言う。
「当時、直営店を2店出店する計画が持ち上がっていて、まとまった資金が必要でした。とてもよいタイミングで三島信金さんからの提案があり、しかも保証を外した融資だということで、いい流れが来たと感じたことを覚えています」
こうして、取引のあった二つの地域金融機関の融資から、相次いで経営者保証を解除できたという事実は、偶然でも幸運でもない。
付加価値経営を志向しつつ利益体質を構築し、あわせてしっかりとした会計を実践し続けてきた結果だった。木村税理士は言う。
「先般、金融庁が経営者保証改革プログラム(P16図表参照)を打ち出したこともあり、今後、中小企業経営者は、保証解除ができるような『良い会社』を目標にする時代が来るのではないでしょうか」
現在、美幸工業では年10件以上の依頼案件をこなしつつ、直営店2店を運営している。近年では直営店で、ポイント制度の導入や各種キャンペーン、LINEによる情報発信などの「攻めの」マーケティングを実践し、QRやカード決済にも対応。竹村社長は言う。
「今のコインランドリーは、多機能で洗剤も高級。ドラムリフレッシュ機能などで衛生面も万全です。業界は従来のイメージを払拭して新しい時代に入ったといえるでしょう。5月に社長を譲る予定の専務には、若い感性で会社を成長させてくれることを期待しています」
2012年11月5日付で、関東経済産業局・東海財務局より経営革新等支援機関に認定されました。今後は、より一層地元の中小企業の経営支援に力を入れ、地域の活性そして日本の活性のために貢献していきたいと思います。
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